顎変形症の適応症例とは?
保険適応基準と医学的適応基準
 
 

矯正歯科の分野で言われている矯正治療が保険適応になる<顎変形症>とはいったいなんでしょう?
簡単に言えば、歯列、咬み合わせ、顎の骨が大幅に変形している症状です。

ここで難しいのは、手術適応の医学的な線引き保険適応の線引きとの二つの基準の問題があることです。 そしてその二つの問題が混じり合っていることが議論を複雑にしています。

まず、多くの矯正の患者様はある程度の顎顔面の変形があります。
しかし、全ての矯正の患者様に手術が必要なわけではありません。
どこから手術が必要なのでしょうか?

健康保険の基準(健康保険を使うのであれば)では
保険の定義からは「顎離断等の手術を必要とするものに限る。」となっています。
では誰が必要性を決めるのでしょうか?矯正医?患者様?健康保険組合、お役所?
医療としては患者様と矯正医ですが、健康保険を使う以上、健康保険組合です。
この健康保険は公的資源ですから、健康保険を適応するなら社会が納得する病気である必要があります。 (受け口や、著しい出っ歯、顔面非対称等のひどい咬み合せ)

医療の基準(自費、保険適応の問題を除いて)では、
患者様が主体であって欲しいと思います。矯正医と口腔外科医はその補助者に過ぎません。
私見ですがお役所の保険のシステムは別として、医療としての観点から導くと
「顎変形症の定義は、単に歯列咬合として治療可能だから顎変形症でないというものではなく患者様の希望や満足度と矯正歯科学的な観点からも手術の併用が望ましい不正咬合の状態」と私見の範囲では考えます。
保険制度の問題はこのくらいにして、ここでは矯正治療単独と手術を併用した矯正治療(顎変形症)の違いを解説していきましょう。 基本的な考え方を示します。(私見です。)

正常咬合>>歯、歯列の変形>>不正咬合>>さらに骨格(土台)の変形>>顎変形症
治療の必要なし          矯正単独>>>>>インプラント矯正>>>>外科併用矯正

要するに顎骨と歯列咬合の変形の度合いが大きい場合は顎変形症(保険適応可能)となります。
逆に言えば、顎変形症は矯正治療単独ではきれいな治療結果が出せない状態なのです。
もし同じような不正咬合の状態があったとしても、顎骨の変形の度合いが低ければ矯正単独で可能ですが、 少し変形が大きくなるとになるとインプラント矯正になり、 もっと大きくなると外科併用矯正(顎変形症)になります。

骨格的な変形を治療するなら、顎変形症手術
を併用するしかありません。(手術の覚悟も必要です)
問題は患者様がどのような治療結果を望んでいるかです。
歯と歯列だけ治ればいいのか?
歯と歯列と骨格的な変形を改善するのが良いのか?
それを決めるのは患者様です。
(当院では、手術の危険性もきちんと説明し、選択して頂きます。手術はナンチャッテ的な手術ではありません。本物の手術です。)

ここで、矯正治療で理解して頂きたい事は治療に魔法はないという事です。
万能な外科併用矯正治療はありませんし、矯正単独も万能ではありません。
矯正治療が行っていることは、歯の軸と位置を動かして土台の骨(顎と顔面の骨)にあわせる作業のことです。基本的に矯正治療単独では土台の骨を動かすことは出来ません。

顎変形症手術を併用した矯正治療は比較的カモフラージュが少なくてすみます。
手術で何をするかと言えば、平均値からかけ離れた顎の骨を出来るだけ平均的な位置に戻す事によって、矯正治療による歯の軸による補正に頼るところを少なくするのです。

また、矯正治療はどのような治療にも治療目標があり、それに伴った想定治療期間があります。
治療が早くて効果的な(大幅な歯の移動ができる)治療はありません。
(ローリスクハイリターンの金融商品がないのと同じです。)

矯正単独では治療目標を高く設定(たくさん歯を動かそうと決める)すれば、その分治療期間も掛かりますし、患者様の協力も必要になってくるでしょう。

それに対し、手術を併用した矯正治療では高い治療目標(治療結果)でも、期間を短縮し、患者様の日常の協力は少なくてすむ場合があります(例、上顎前突等)。

ただし、入院して全身麻酔で手術を受けなければなりません。
入院期間は手術の種類によって異なり、短期では10日程度、長期では3週間程度です。
また、可能性としては限りなく0に近いですが、手術を行う以上、麻酔に関するトラブルは0ではありませんし、手術の種類によっては手術後に日常生活に問題のない程度の感覚障害残存の可能性はあります。
つまり、大きな効果を得る代わりに最低限度のリスクを理解しきちんと覚悟して頂かなければなりません。

費用的には保険適応であれば、全てに保険が適応になります(混合診療禁止)ので、高額療養費制度を活用すれば、矯正治療、入院、手術代全ての自己負担額を総計しても概ね50〜60万円程度の治療費です。
ただし、費用的な問題を一番に考えて治療方法を決めるのはやめた方がいいと思います。
矯正治療単独でも70〜90万円ですので、費用以外の部分をよく検討して治療方法を決めてください。

自費になる場合、矯正治療と手術、入院費を合わせて250〜300万ぐらい掛かります。

ちなみに受け口(反対咬合)の場合は、外見的な改善は外科併用矯正治療(顎変形症としての治療)の方がより効果的な場合が多いでしょう。
反対咬合の場合、矯正単独では下の前歯を内側に入れて治すため、オトガイ(下顎の先端)がかえって尖って(出っ張って)見えることが多いため、治療後に受け口の印象が強くなる場合があります。
受け口は患者様が外見的な嫌悪感をお持ちなら間違いなく外科併用矯正治療が望ましいと思われます。

 
  まとめ

上顎前突症例における

矯正治療単独と顎変形症(上顎前方骨切り術)の比較

 

矯正単独

顎変形症

出っ歯の程度による適応

中等度以下

中等度以上

治療期間

1〜3年程度

1年半程度の短縮も可能

費用

75〜95万円

50〜60万円

日常の協力

インプラント矯正では必要ないことが多い

必要ない事が多い

治療によって変化する範囲

歯と歯を支える骨

顔の下半分の骨格と歯と歯の周囲の骨

外見的な変化

口元、唇、ガミーの改善

唇、口元、顔の下半分、ガミーの改善

治療の限界

やや多い

比較的少ない

歯根吸収

平均的、無理をすれば多い

平均的、少ない場合もある

入院、手術

不必要

絶対必要、入院期間7〜14日程度

感覚障害残存の可能性

なし

可能性はある

麻酔の危険性

抜歯時以外無

それなりの危険性がある

安定性

ケースバイケース

ケースバイケース


注意)この表はあくまでも上顎前突症例の一般的な傾向を示したものであり、個々の症例によっては当てはまらない事もありますので、重要な点は必ず担当医に確認してください。(下顎前突はまた異なります。)
  下顎前突症例における
矯正治療単独と顎変形症(下顎枝矢状分割術)の比較

 

矯正単独

顎変形症

受け口の程度による適応

中等度以下

中度〜高度以上

治療期間

1年〜2年半程度

3年半程度

費用

75〜95万円

50〜60万円

日常の協力

必要な事が多い(インプラント矯正の場合を除く)

必要ない事が多い

治療によって変化する範囲

歯と歯の周囲の骨

顔の下半分の骨格と歯

外見的な変化

口元のみ、若干下顎の先がそったように見える場合がある。
たまに、悪化したように感じる場合がある

口元、顔の下半分

治療の限界

比較的多い

比較的少ない

歯根吸収

平均的、無理をすれば多い

平均的

入院、手術

不必要

絶対必要、入院期間1~3週程度

感覚障害残存の可能性

なし

下唇の感覚障害の可能性があるが、一般的には日常生活には支障をきたさない。

麻酔の危険性

抜歯時以外無

それなりの危険性はある

安定性

無理をすると低い

比較的安定


注意)この表はあくまでも下顎前突症例の一般的な傾向を示したものであり、個々の症例によっては当てはまらない事もありますので、重要な点は必ず担当医に確認してください。(上顎前突はまた異なります。)